
・この物語はAIにより作成したプロットを採用し、AIと協働して執筆しています。
・掲載されているイラストはAIにより作成されています。
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前回のストーリー
退団記者会見
花子は朝、目を開けた瞬間に理解した。
昨日のニュースは、夢ではない。
胸の奥に沈んでいた重りが、起き上がる動作と一緒にずしりと動く。
今日は記者会見の日だ。
会社に着くと、なぜだか朝礼の声が遠くに聞こえる。
上司の指示は、紙の上をするりと滑って通り過ぎていく。
花子は必至で笑顔を作り、いつも通りを装って、キーボードを叩いた。
いつも通りに見せることで、自分もなんとかいつも通りだと錯覚できる。
昼休みになると、ニュースサイトには、退団記者会見の見出しが並び始めていた。
写真はまだ少ないし、記事の内容もうすっぺらい。
だが、今の花子の胸にはグサリと刺さる。
「紲瀬ひなたは、最後まで心を込めて舞台に立つと語った」
花子の喉がきゅっと縮む。
ーー最後まで
その言葉が、宝沼トップスターとしての紲瀬ひなたの終わりを明確な輪郭にする。
ニュースに添えられた写真には、白い上下のスーツを身にまとい、清々しい笑顔のひなたが写っていた。
花子は大きく息を吸った。
胸が痛い。
この痛みはいるつまで続くのだろう?
“最後”の現在進行形
花子は目覚まし時計が鳴る前に目を覚ました。たぶん体は眠り足りていないのに、意識だけが先に起きてしまう。
退団が発表された翌日に行われた、紲瀬ひなたの記者会見。
花子は、まだ現実を受け止めきれていない自分の脳の奥のほうで、その姿が繰り返し再生されているのが分かった。
音を伴わない映像、ひなたの言葉の「間」だけが、胸の内側に残っている。
花子は起き上がる前に、布団の中でいちど深く深呼吸した。
まだ、泣き疲れが残っているが、泣くだけ泣いたら、何かが整った感じもある。
洗面所で顔を洗い、鏡の前で口角を上げる練習をしてみた。
そして職場の朝は、何も変わらない朝だった。
会社に着き、朝礼を終え、席に着く。
そして、パソコンを立ち上げ、メールを処理したら、いくつかの書類を確認する。
いつもの順番を守る。
それを守っている間は、無駄に心が暴走しない。
花子はそれを身にしみて知っていた。
お昼休みに入って少したったころ、花子のスマホが机の上で震えた。
「もう始まってる!次期トップ論争!!」
ヌマ友のグループLINEだ。
花子は画面を一瞬だけ見て、思わず机の上に伏せる。
それを見てしまうと、胸の奥で自分の導火線に火が点いてしまうことが分かったから。
トップスターの退団発表があると、途端にファンは次を考え始める。
それは決して悪いわけではない。
宝沼を愛しているからこそ、組の未来を思う。
ただ、花子の中ではまだ、ひなたの「最後」が現在進行形で息をしている。
いま、未来に触れると、今という時間が薄くなる気がして、ちょっとだけ怖くなっていた。
そのあとも、グループトークは続く。
「トップはれんで決まりだよね」
「いや、まさかの人事もあるかも」
「すずちゃんも同時退団ってことは、相手役も気になる~!」
「あおぐみの娘役、有望な下級生多いからわからないね」
「別箱の配役がヒントかな?」
「組替えもありそうじゃない?」
花子は画面を閉じ、机にうつぶせて息を吐く。
論争の文字は、舞台の光とは違う。
熱だけが残り、形がないものは、花子の心を疲れさせる。
花子の “ひとり次期論争”
こんな日は、1日中モヤモヤが続く。
帰宅後、軽めの夕食を終えて、ソファに沈む。
テレビをつけ、宝沼スカイステージにチャンネルを合わせると、いつもと変わらないプログラムが淡々と進んで行く。
でも花子の中でひとつだけ違うことがあった。
テレビに映るスターさんたちを見ながら、気がつくと「次のトップスターはこの人?」「いや、もしかしたらこの人かも」「まさか、この人だったりする?」そんなことばかり考えていることだ。
昼間のLINEでは、見ない振りをしていたが、小さな部屋のテレビの前で、いま、静かに花子の “ひとり次期論争” が繰り広げられてく。
ひなたの退団という現実を突きつけられて、とても悲しいはずなのに、無意識に未来へも思いを馳せているーー。
花子が、そんな不思議な感情と向き合いながら画面を眺めていると、画面には、次回のあお組公演関連番組の予告。
トップスター紲瀬ひなたのコンサート関連情報だ。
花子はひなたの名前を見て、胸がきゅっと縮む思いがした。
そして、ふと目の前の厳しい現実に呼び戻される。
「チケット!!」
そうだ、次期論争も火ぶたが切って落とされたが、花子にはチケット争奪戦のほうが深刻な問題だった。
落ち込んでいる場合ではない。
花子は手帳を開き、公演日程を確認すると、チケット発売日、休みを取ることができそうな日に〇をつけた。
まずは現実の段取りだ。
段取りは、花子の足元の線になる。
花子はそう自分に言い聞かせながらリモコンをテーブルに置くと、棚からル・ヨンクを1冊取り出した。
ひなたの笑顔を見て、気合いを入れようというのが、花子のいつものお決まりコースだ。
表紙では、紲瀬ひなたが微笑んでいる。
ーーこの笑顔を劇場で拝むために、何としてでもチケットを手に入れなければ!
そんな決意を胸に、ル・ヨンクのページをめくる花子。
すると、部屋の空気がわずかに変わった。
あの気配だ。
冷蔵庫の唸りが少しだけ遠くなると、ル・ヨンクに写る銀橋から銀色の光の筋が放たれた。
「こんばんは!」
花子の耳元に、シルビーの声が響く。
「今日は、行きたい気分?」
シルビーが花子に尋ねると、花子はひと息置いてから、答えた。
「ねぇ、どうして私に聞くの?」
「どうして……って?」
「だって、前はシルビーが決めて連れて行ってくれたでしょ?」
シルビーは少し微笑みながら答える。
「もしかして、花子、迷ってる?」
図星だった。
せっぴーには会いたい。
舞台裏で見た横顔、化粧前での楽しそうな会話、稽古場での真剣な眼差し、花子にとってはすべてが夢の世界だった。
だが一方で、自分の知らない“夢の向こうの現実世界”でもあった。
「いまの花子が見たいのは……」
「え?」
「コンサートのお稽古?」
シルビーの言い方は、断定に近い。
花子が、返す言葉がないまま苦笑いをすると、シルビーは言った。
「迷っているなら、見なければいい。この契約は、花子の呼吸を乱すためにあるんじゃないから」
そう、シルビーは花子を無理やり連れて行く存在ではないのだ。
現実をちゃんと受け取るために、必要な時にだけ連れて行く。
ちゃんと受け取れないなら、連れて行かない。
花子はソファに深く座り直し、両手を膝に揃えて置いた。
「今日も、行かない」
花子がそう告げると、シルビーはニッコリ笑って頷いた。
「花子はもう、自分で選べるね」
満足そうなシルビーの様子に、花子は急に不安になり、慌てて訊ねた。
「え、でも、シルビー、、、また来てくれるんでしょ?」
「もちろん、必要なときには」
シルビーはそう言い残し、あっという間に光の中へ帰っていった。
必要なときーー。
花子はその夜、シルビーの言葉を何度も繰り返しながら、闇の中で自分の息を数え、眠りに落ちた。

【宝沼歌劇団 第11話│紲瀬ひなた、最後のコンサート】の更新予定は3/8です。



