【連続ブログ小説】宝沼歌劇団 第1話│午前10時の給湯室 ヌマファンの情緒は解散しない

・この物語はAIにより作成したプロットを採用し、AIと協働して執筆しています。
・掲載されているイラストはAIにより作成されています。
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午前10時の給湯室

春咲花子。

宝沼歌劇団を愛してこの道40年。

宝沼ファンをしていると定期的にやってくる「午前10時の緊張感」を抱えながら、今日も花子は職場でデスクに向かっている。

宝沼歌劇団の公演チケットは、基本的に激しい争奪戦である。

とりわけ関東、東京宝沼劇場の公演は、座席数よりファンの欲望のほうが圧倒的に多い。

そのため多くのファンは宝沼友の会に入会し、劇団公式の抽選サービスでチケットを申し込み、当落の通知メールを待つ。

抽選結果が送られてくるのは、午前10時ごろ。

そう、これが「午前10時の緊張感」の正体である。

つまり、仕事をしている宝沼ファンは、その時間だけ”仕事”と”宝沼”を同時に脳内起動する必要がある。

花子は52歳の会社員で、年齢より若く見られることが多い。

しかし当たり前だが、若く見えるからといってチケット当落の衝撃が軽くなるわけではない。

季節の移ろいより、宝沼の公演スケジュールで一年を把握しているタイプだから、チケットの当落は死活問題とも言える。

午前10時ちょうど。

花子はできるだけ目立たぬよう、自然を装いながら職場の自席を立った。

向かう先は給湯室。

理由はひとつしかない。

宝沼の公演チケットの当落メールを確認するためである。

職場には、宝沼ファンの挙動をなぜだか執拗に嗅ぎ分ける人々が一定数いる。

目線の泳ぎ方、歩幅の違い、妙に丁寧な深呼吸。

そういう“電波”をこちらが出したら最後、瞬時に誰かのアンテナに引っかかる。

花子は、顔は平静、心はムラへ直行、という矛盾を抱えたまま給湯室へ入った。

ケトルの湯気が、やけにのどかに見える。

同僚が洗っている陶器のマグカップの音が小さく鳴った。

花子はあたかも「お茶を淹れに来ました」という顔でスマホを取り出す。

深呼吸を3回。

祈りではない。

酸欠防止である。

受信トレイを更新する。

まだ来ない。

もう一度更新する。

まだ来ない。

待ちきれなくなった花子は、数秒単位で更新を繰り返した。

そして、ついに来た。

抽選結果を伝えるメールの件名が目に入った瞬間、花子の心の蔵の奥に、小さな大階段が現れる。

いざ。

落選。

はい、解散

胸の内側で、ガタガタと音を立てて何かが崩れ落ちた。

しかし花子は、決して表情は崩さない。

ポーカーフェイスを装いながらカップにお湯を注ぎ、インスタントコーヒーに砂糖とミルクを入れて、ゆっくり混ぜる。

揺れるのは湯面だけでいい。

花子は心の中で自分に言い聞かせた。

落ち着け。

これは会社の評価でも、友人からの絶縁状でもない。

単なる公演チケットだ。

チケットが外れてスケジュールが空いた、それだけのことだ。

言い聞かせるほど、胸のあたりが妙に騒がしいのが腹立たしい。

こういう時に限って、目の前にいる同僚が明るく声をかけてくる。

「花子さん、今日は忙しそうですね」

花子は笑って答えた。

「ええ、いろいろ締め切りが」

実際、仕事での締め切りに追われる身だ。

そして今、宝沼オタクとしての情緒も容赦なく締め切られている。

花子は心の中でだけ、静かにいつものセリフを呟いた。

はい解散。

それは、締め切られた情緒をこのまま開いてしまうと仕事ができなくなるから、いったん畳む、という意味だった。

宝沼ファンは、スターたちと共に長年にわたり多くの感情と向き合って生きる。

場合によっては、本人たち以上に喜怒哀楽の中で踊っている。

だから感情を畳む技術だけは無駄に身についてしまう。

ここで畳み損ねれば、午後の会議の議事録はおそらく全部”尊い”と記録されることになる。

つまり花子の頭の中は上の空になり、重要な発言が全部、銀橋の向こうへ消える。

生きてるだけで、優勝

花子はコーヒーを入れたカップを手に、静かに自席へ戻った。

背筋は真っすぐ。

歩幅は一定。

そこら中に配備されている”宝沼オタ・センサー”に引っかからないためだ。

しかし脳内はどしゃぶりの雨が降り続けている。

無事センサーをクリアし、デスクに辿り着くと、花子は即座にノートパソコンの画面を開いた。

周囲からは真剣に仕事をしているように見える姿勢を取る。

まさか、机の下でスマホを操作しているとは悟られないように。

視線はPC、指先はスマホ。

これぞ働く宝沼ファンの二刀流だ。

花子は宝沼友グループLINEに、少々自虐気味のメッセージを送信した。

「給湯室で開封。無事、撃沈。本日も平常運転です。」

この「平常運転です」は、花子の無意味な意地であり、自虐であり、照れ隠しでもある。

いつもクールな由紀子が秒で返してきた。

「徳が足りない。」

それもまた通常運転だ。

続いて梨沙が打つ。

「次は席種を散らして応募。当選確率は分散が正義。」

いつも正論である。

最後に最年長の楓がふわっとまとめた。

「花子ちゃん、今日もちゃんと生きてて偉い。それだけで優勝。外れたときほど、よく食べてよく寝て、次に備えるのよ。」

花子は思わず吹き出しそうになった。

楓の優しさはいつもちょっと面白いのに、なぜか説得力を持って胸に染み入る。

人生経験の差なのだろうか。

そうだ。

私は頑張って生きている。

それだけで優勝。


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