【連続ブログ小説】宝沼歌劇団 第3話│舞台袖で見た“現場”には夢を作る魔法があった

・この物語はAIにより作成したプロットを採用し、AIと協働して執筆しています。
・掲載されているイラストはAIにより作成されています。
 ※無断使用・転載は固くお断りいたします。

前回のストーリー

ここは神域ではない

舞台袖。

宝沼の舞台袖だ。

ファンが想像だけで歩く場所の、現物。

思ったより狭い。

思ったより静か。

そして思ったより、人の気配が濃い。

黒い服のスタッフが、音を立てずに通り過ぎた。

手に持つのは紙の束と、細いテープと、小さな工具。

誰かが指で合図を出し、別の誰かが頷く。

言葉が少ない。

その代わり、動きが正確だ。

花子は、観客席で見ていた「夢」が、ここでは「仕事」になっているのを感じ、妙に背筋が伸びた。

袖の隙間から、まばゆい光に照らされた舞台上が一瞬のぞく。

遠いのに、目が吸い寄せられる。

紲瀬ひなた――

美の結晶のような凛とした立ち姿、吸い込まれそうになる微笑みが、光の中にあった。

燕尾の線が、ほんのわずか揺れる。

それだけで、花子の心臓が大太鼓を盛大に叩き始める。

自分がいまどこに居るのかを冷静に理解するという理性は、せっぴ―の前には無力だ。

「……せっ」

声になりかけた“騒音”を、花子はギリギリのところで飲み込んだ。

かわりに、唇をギュッと噛む。

客席なら、ここで呼吸ごと大歓声、いや渾身の拍手になるところなのだが、今は舞台のそでにいる。

花子はここでは自分が危険物になり得ることを実感し、頭の中で契約書の重要事項を繰り返す。

声を出さない、手を出さない、勝手に動かない、はしゃぎ過ぎない

「いいよ、飲み込めた。えらい」

シルビーが小声で褒める。

褒められてしまうと、意味もなく泣きそうになるのが花子の厄介なところだ。

今度は鼻をすする音に神経を集中する羽目になってしまった。

通路を、黒い服のスタッフが静かに走る。

小声の短いやりとりが交わされ、衣装を抱えた人が立ち止まり、別の人へ手渡して消える。

花子は理解した。

早替わりだ。

舞台の魔法は、ここで息をしている。

役者の影がふっと袖へ滑り込み、黒服の手が一斉に動く。

ボタン、紐、布、飾り。

花子の目には「魔法」に見える速度なのに、そこにいる全員の顔は真顔だった。

真顔のまま、魔法をやっている。

花子は、感動と衝撃で変な笑いが出そうになり、また口を押さえた。

早替わりが終わる。

役者は何事もなかったように舞台へと戻っていく。

袖に残るのは、ほんの一瞬の熱と、整えられた布の匂いだけ。

花子は、夢の裏側が「慌ただしさ」ではなく「手際」でできていることに、胸の奥がじん、と温かくなった。

ここは神域ではない。

誰かの仕事場だ。

だからこそ、夢の舞台はひときわままゆい光を放つ。

舞台の照明が一段階変わり、袖の空気がぴんと張る。

花子は思わず瞬きを忘れた。

始まる直前の気配が、客席で待つときよりも、生々しい。

そして間髪入れずに声がする。

「今日はここまで」

シルビーが花子の盛り上がった感情を容赦なく遮る。

「え、もう?」

「最初から欲張ると、花子が倒れる」

「……次は?」

シルビーは黙って花子の肩をちょん、と叩いた。

「次はね、化粧前かな」

シルビーが言い終えた瞬間、足元から銀色の風が立ち上がる。

舞台袖の匂いが遠ざかり、黒い幕が裏返り、花子が次に気づいたときには、またソファへ戻っていた。

ルヨンクはいつものように膝の上で開かれたまま、マグカップはまだ温かい。

現実は相変わらず、家賃の請求書みたいに冷静だ。

花子の頭の中で、舞台袖のあの風景がふわっと霞み始めていた。

誰が何を持っていたのか。

どの手が、どの布を整えていたのか。

そしてせっぴ―が確かに目の前にいたことすらも、遠い記憶となって霞んでいく。

だが、ひとつだけ、なぜかはっきりと心の中に残っていることがあった。

夢は、誰かの「真顔」に支えられている。

そのとき、ルヨンクのページの端が、もう一度、少しだけ光った――

ように見えただけかも知れない。

花子はクスッと笑いながら、その光を指でなぞる。

「次は、化粧前」

「!?」

花子は誰もいない部屋で、ひとり大声で叫んでみた。

「それ、絶対ムリ!!」

それでもなぜか笑顔は隠せないオタクの習性。

化粧前、推しの楽屋、せっぴーの目の前――

その夜、花子がいつまでも寝付けない夜を過ごしたのは言うまでもない。

通勤電車は黒子さんだらけ

朝。

花子は、目覚ましより先に脳内の反省会で起きた。

昨夜、舞台袖にいた。

――たぶん。

黒い幕と、黒い床と、黒服さんたちの手が、信じられない速さで動いていた。

――はずなのに。

細部を思い出そうとすると、指の間からさらさら逃げる砂みたいに、記憶が遠ざかっていく。

花子は布団の中で眉間にしわを寄せた。

覚えていないのに、覚えている感覚だけが残っている。

あれは夢だったのか。

夢にしては、あの空気の冷たさと、布の匂いが妙に生々しい。

キッチンでコーヒーを淹れながら、花子はルヨンクに目をやった。

昨夜と同じ棚、同じ場所。

ページの端も、昨日と同じ位置に収まっている。

光っていない。

花子は、そういうものか、と自分に言い聞かせた。

都合よく夢を見て、都合よく現実へと帰還する。

推し活とはだいたいそういうものだ。

通勤電車に乗ると、花子の視界は一気に黒くなる。

スーツの群れ。

コートの群れ。

黒いバッグの群れ。

全員、うっすら記憶の中に姿を見せないまま居座っている「黒い服を着た人たち」に見えてくる。

花子は心の中で小さく己につっこんだ。

今日も、東京の通勤電車は舞台裏の人口密度以上だ。

ファンの欲は妄想を生み出す!?

会社に到着した花子は、いつものように自分の席につく。

いつものパソコン。

いつもの書類の山。

いつもの小うるさい上司の声。

なのに花子の身体だけは、昨夜の「妙な」空気を覚えている。

歩幅が勝手に小さくなる。

椅子の音を立てないように静かに、静かに。

そう、舞台袖にいたときのように。

隣の席の同僚が顔を上げた。

「花子、今日、やけに静かじゃない?」

花子はにこやかに返した。

「集中してるだけよ」

集中しているのは仕事ではなく、物音を立てないように、である。

そして昼休み。

花子のスマホが机の上でブルブルと大げさに震えた。

いつもの宝沼友グループLINEだ。

由紀子が、相変わらずスタンプも付けずにストレートに言いたいことだけを書いて送ってくる。

「落選ショックは抜けた?今週、新作クッズ出るけど宝沼キャトル行く?」

それに梨沙が続く。

「新作はとりあえず見に行こうかな。でも買うなら上限決めてから」

最後に楓が、やんわりと、いや、ちょっと違う角度で話を締めくくる。

「花子ちゃん、朝ごはん食べた?気持ちが落ちてる日は、まず胃袋から埋めないとね」

花子は画面を見て肩の力が抜けた。

この三人は、花子の生活を立て直す順番を、妙に心得ている。

花子は昨夜、自分の身に起きたことを伝えたくてスマホに文字を打ち始めたが、ふと指を止めた。

――はしゃぎ過ぎない。

契約書の一文を思い起こす。

――契約違反が確認されたら即終了。

高ぶる気持ちを抑え、花子は淡々とメッセージを打ち込んだ。

「昨日、変な夢を見た。舞台袖にいた気がする」

そう、夢を見ただけなら「あり得る話」で終わるはず。

由紀子の返信は速い。

「夢でも近いとか、花子の欲が強すぎなんじゃない?」

そして梨沙は冷静だ。

「疲労のときは脳が都合のいい舞台を作るって言うしね。睡眠を確保したほうがいいよ」

楓だけは、少しだけ言葉を選んでくれたようだった。

「それ、夢じゃないかもしれないわね。花子ちゃん、忙しいと思うけど無理はしないでね」

花子の指が止まった。

これ以上の会話は無意味だ。

花子は笑って誤魔化すスタンプをポチっと押して、昼休みを終わらせた。

でも現実は、スタンプで処理できる範囲を軽々と超えてくる。

次なる「欲」への準備完了

 いつもの1日を終えて帰宅した花子は、昨日より少しだけまともな夕飯を用意した。

もやしと豚肉を炒めるだけだったが、温かい食べ物があるだけで気持ちは変わる。

食後、ソファに座り、今日もルヨンクを開く。

光らない。

花子は、わざと大きくため息をついた。

「来ないなら来ないでいいんだけど」

そう言いながら、「あの小物体」にやって来てほしい自分をハッキリ自覚してしまう。

花子はもう一度、深くため息をついてから立ち上がり、洗面所へ向かう。

鏡に映る自分の顔が少し疲れて見える。

「若く見えても、もう52歳だしね――」

そしてまた、ため息をひとつ。

今日はなんだかため息が止まらない。

そのときだった。

鏡の端に、かすかに銀色の光が走る。

花子はごくりとつばの飲み込み、全集中で目をこらす。

銀色の線が、ゆっくりと文字になる。

シルビーは現れない。

声も聞こえない。

「次は化粧前だよ。準備してね」

でも、空中に描かれる銀色の文字には、はっきりとそう書いてある。

あの可愛げのあるシルビーの低い声が、頭の中だけで自動的に再生される。

花子は鏡に向かって、小声で言った。

「準備って――」

花子が質問をするま間もなく、銀色の文字は少しだけ光りを強めてから渦を巻いて消えてしまった。

花子は洗面台に手をつき、なぜか笑うのをこらえていた。

どう頑張っても口角が下がってくれない。

化粧前――

わりと心臓に悪いチョイス。

 花子は鏡の中の自分に向かって、ひとつだけ確認するように言った。

「……落ち着け。ここはまだ現実。明日も会社が待っている」


【宝沼歌劇団 第4話│花子の理性が試される!?ポーチに現実を詰め込んで】の更新予定は2/1です。

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