【連続ブログ小説】宝沼歌劇団 第2話│銀橋の妖精シルビー現る、空中に舞う契約書

・この物語はAIにより作成したプロットを採用し、AIと協働して執筆しています。
・掲載されているイラストはAIにより作成されています。
 ※無断使用・転載は固くお断りいたします。

前回のストーリー

花子の推しは「紲瀬ひなた」、愛称は「せっぴー」

宝沼歌劇団の公演チケットは常に激戦である。

観たい時にフラリと劇場へ向かえば気軽に見られる時代もあるにはあったが、花子のファン生活は常にチケット確保との戦いの日々だ。

そしていま、花子がここまでチケット抽選に必死になり、情緒を振り回されているのには、ちゃんと理由がある。

花子の推しは、あお組トップスターの紲瀬ひなた。

せつせひなた。

ちょっと言いにくい名前だが、花子にとってはそれもまた尊い。

愛称は、せっぴー。

美人だ。

とにかく美しい。

美形王道二枚目を真正面から成立させる顔立ちで、しかも長身。

スーツや燕尾服を着た日には”視線の行き場がない”という類の事件が起きて、客席には心拍数が上がり過ぎてしまう被害者が続出する。

彼女が歌えば、その温かく伸びのある歌声がまっすぐ胸に突き刺さる。

彼女が躍れば、音の切り方が絶妙で、神レベルのリズム感、見ている側の呼吸まで整える。

上品なうえに、人の良さが隠しきれないさわやかな笑顔がたまらない。

性格は明るく、穏やかで、でも面白い。

舞台で完璧に王子をやっていた人が、舞台を降りればトークでは軽快にその場を転がす多才ぶり。

その鮮やかな切り替えの完璧さに、ファンは虜になり、ひと時の夢を見る。

そう、褒め言葉しか浮かばない。

花子にとってせっぴーは、”尊い”としか表現しようがない存在だった。

だからせっぴーは「尊い」

ただし、せっぴーは初めから”順風満帆な王道”を歩んできたトップスターではない。

下級生の頃から努力の人で、それなりに役もつき、扱いも良かったものの、トップへの順番だけはなかなか回ってこない。

期待されて、外されて、そしてまた期待されての繰り返し。

別箱主演をこなしても、”決定打の肩書き”がなかなかつかないもどかしい時期が続く。

例によってファンのほうが勝手に焦り、勝手に胃を痛め、勝手に祈り、時として勝手に騒ぐ。

そう、騒ぐのがある意味、宝沼ファンの醍醐味でもある。

スター本人は明るく笑っているのに、ファンである側がしんどくなる。

そんな遠回りした紲瀬ひなたの宝沼人生を、花子はずっと見守ってきた。

遠回りの分だけ、舞台への信頼は厚くなり、支持も集まっていくことがある。

舞台の説得力が増すたびに「この人がどうしてトップになれないのか」という空気が、客席側で育っていくわけだ。

それは宝沼独特の文化でもある。

そして紲瀬ひなた、初舞台から18年。

客席から後押しされるように大きな山が動き、ようやくトップへの階段を歩むゲートが開かれた。

遅咲きの戴冠。

歓喜は当然としても、ファンは「別の現実」も知っているから手放しでは喜べない。

トップスターになるということは、”退団”という次のステップへのスタートが、明確に切られることでもある。

遅咲きである紲瀬ひなたがトップスターとして輝く姿を見られる時間は、長くないかもしれない。

いや、長くない。

だからこそ、ひと公演ひと公演が、いつもより尊くて切ない。

舞台写真集「ルヨンク」は私の非常口

午後になり、花子は会議に必要な資料作りを淡々とこなしながら、心の中で二度だけ情緒の扉を開きかけた。

1度目は「見たいのに見られない」という悲痛な叫び。

2度目は「チケットは取れなかったが、今日も普通に働いている、偉いぞ自分」という自己肯定。

”偉い”のハードルが地面すれすれ、判断基準が低すぎて笑えるレベルだが、花子はそうやって自分のココロのバランスを取り続けている。

その日の夜。

家賃の重みが染みるワンルームに帰り着くと、部屋が「おかえり」より先に「固定費の支払日がくるよ」と言ってきた気がした。

東京のひとり暮らしは、呼吸するたびにお金が減っていく。

花子は照明を最小限にして、冷蔵庫を開けた。

自分の気力と同じくらい冷蔵庫の中身が心許ないことを確認する。

卵がふたつ。

納豆が一パック。

豆腐が一丁。

賞味期限が明日に迫っている食材たちが、やけにこちらを睨んでいるように見える。

花子は自分に向けて呟く。

「できるところは節約。推し活も控えめにする。」

その直後、別の花子がすかさず口を出す。

「推し活控えめは、ムリ」

どちらも花子だ。

でも、今日の夕食ならいくらでも控えめにできる。

豆腐と卵と納豆、そして白米。

胃袋が「これ、罰ゲーム?」と抗議してきたが、花子は無視して白米で押し切った。

推し活は節約と相性が悪い。

だが、節約は現実と相性がいい。

質素すぎて笑えてくる食卓をささっと済ませ、洗い物を終えた。

湯を沸かし、コーヒーを淹れたマグカップを手にソファへ沈み込む。

ここから今日の心のケアが始まる。

棚の一番近いところに、舞台写真集「ルヨンク」がずらりと並んでいる。

ルヨンクの中の写真たちは、観劇できない日でも、舞台へ心を逃避させるための非常口のような役目を果たしてくれる。

花子は推しが微笑む表紙をひと撫でしてから静かに、そして丁寧にページを開いた。

妖精シルビー現る!

ページをめくる音が、心拍を少しだけ落ち着かせる。

ページをめくっていると、照明の角度で写真の中の銀橋がふっと光りを放つ。

銀橋に当たる光の反射。

たぶん、部屋の中のLEDが反射するのだろう。

よくあることだ。

花子は何も気に留めることもなく、ページの端を指で押さえた。

ただそれだけだった、はずが、、、

次の瞬間、写真の中で反射していた銀色の光が、紙の中から外へ向かって一直線に伸びていく。

一本の細い線になり、空中を切り裂いた。

花子は息を止めた。

目の前で現実が薄れていくのを感じながら、ソファから立ち上がろうとして膝がクッションに引っかかる。

逃げそびれる。

再びそのままソファに座り込んだ花子の脳内は、完全にパニックだった。

「え。待って。なに。え。ちょっと待って。」

言葉が渋滞して、気の利いた一言が出てこない。

すると、銀色の裂け目から、ふわりと小さな物体が現れた。

手のひらサイズの物体は、どうやら生き物らしい。

銀色のティアラを頭に乗せ、燕尾服の裾みたいなマントを羽織っている。

背中には羽が生えているようだ。

そして妙に”仕事ができそうな目”をしている。

「こんばんは」

目の前の小さな物体が、話しかけてくる。

低いのに、妙に可愛げのある声だった。

花子は思わず条件反射のようにルヨンクを胸に抱え込み、防御の姿勢を取った。

この薄っぺらい写真集が盾として機能するのかは不明だが、それが花子の今できる最善だった。

花子は恐る恐る声をかけてみる。

「あなた、誰?」

するとその小さな物体は答える。

「シルビーだよ」

「シルビー?」

「silver bridge。銀橋の妖精さ。」

花子は頭の中で”銀橋の妖精”という単語をぐるぐる転がした。

理解が追いつかないのに、質問だけは口を突いて出てくる。

「銀橋って、宝沼劇場にある、あの銀橋?」

「もちろん」

「あの銀橋に妖精なんているの?」

「いるよ、きみの知らない“妖精名簿”があるんだ」

花子は、反射的につっこみたい自分を抑えた。

妖精の名簿なんかより先に、ここが自宅である事実が追いついていない。

「なんで銀橋の妖精がこの部屋に?」

「きみが見たがっているからだよ」

「え?」

「銀橋の向こう側、見たいんでしょ?」

「いや、そりゃーー」

言いかけて花子はぐっと言葉を飲み込んだ。

そして冷静に続ける。

「見たかったのは、ルヨンクなんですけど」

「同じだよ」

「いや、違うでしょ」

「違わない」

なんだか会話が小学生みたいになっていると思いながらも、相手が妖精なら、それも仕方がないと言い聞かせる花子。

「見たいのは、せっぴーの舞台であって――」

「うんうん。だから、内側を見に行こう」

交換条件は「気づき」

そしてシルビーは、ここから急に事務的に淡々と”実務”をこなし始める。

「きみに重要な書類を見せるから、ちゃんと読んでね」

「重要な書類?」

「契約書」

花子は驚いて、わずかに上半身を引いてソファにもたれかかった。

契約という言葉には慎重にならなければならない。

安易にサブスク契約をして、うっかり解約し忘れたまま支払いだけが延々続いた痛い経験が、花子にはある。

しかも今回の相手は得体の知れない”銀橋の妖精”だ。

宝沼チケットと引き換えに何かを失う、みたいな”劇的”な契約を結ばされるのではないか。

頭の中で勝手な妄想が駆け巡る。

「これは通行証みたいもんだよ」

シルビーが空中を指さすと、うっすら銀色の文字が浮かび上がった。

花子は目を凝らす。

宝沼ファンは、プログラムの小さな文字も、専門誌のどんな小さな記事も、推しへの愛で読みこなす訓練を積んでいる。

オタクの視力は、愛で鍛えられている。

ぼんやり浮かぶ銀色の文字でも、気合いで読む。

第1条 声を出さない
第2条 手を出さない
第3条 勝手に動かない
第4条 はしゃぎ過ぎない
第5条 内側で見たことの記憶はうっすら消えていくが、気づきは残る
第6条 契約違反が確認されたら即終了

「第4条、はしゃぎ過ぎない」

―― それが一番難しい。

読み終えた花子の中では、驚きよりも先に疑問符が大渋滞していた。

「ちょっと、なんのことかよく分からないんだけど。」

シルビーは小さく頷く。

「花子にとって劇場は、夢の場所だよね」

「もちろん」

「でもそこは、現場でもあるんだよ」

「現場?」

「そう。人が働いている場所ってこと」

花子はふいに、自分が働く職場の情景を思い浮かべた。

人が働く場所。

舞台も同じだ。

出演者や多くのスタッフが働く場所。

そしてその客席で、多くの人々が舞台に夢を見る。

花子はもちろん働く側ではなく、夢を見る側の人間だ。

妖精シルビーはなぜ、花子に舞台裏へ通じる通行証を渡そうとしているのか。

「別に舞台に上がりたいわけじゃないけど?」

花子が怪訝そうに言うと、シルビーは即答した。

「知ってるよ」

「じゃあ何がしたいの?」

「ま、いいから、いいから」

「よくないでしょ」

「これからその理由を自分で確かめに行くんだ」

「教えてくれないのに、うかつに契約はできないわ」

「”好き”って気持ちが強ければ強いほど、人はもっと知りたくなる」

「確かにそうね」

「もっと近づきたくなる。それは悪いことではない。でも”ある境界線”を越えると、仕事の邪魔になる」

花子はそこでようやくなんとなく合点がいった。

舞台裏に入り込みたいと本気で思っていなくても、ファンの心は時々距離感を見失う。

想像が増え、言葉になり”誰かを傷つける”かもしれない。

あるいは”自分自身を疲れさせる”かもしれない。

だからシルビーは花子に契約を持ちかけたのだ。

舞台裏への通行証を与える代わりに、花子に「気付き」という条件を課す。

「適度な距離」を保つことの大切さを伝えるために。

契約成立!花子の「気づき」への旅が始まる

シルビーは言った。

「きみは宝沼の舞台を観て救われてるよね?」

花子は大きく首を縦に振って頷く。

「舞台を観て、ひと時の救いを得て、また同じ日に戻る。この契約で得る”気付き”は、きみがもっと気持ちを楽にして明日を生きるためのヒントになると思ううよ」

花子は、なんだか難しい話になってきたなと思った。

さらにシルビーは付け加える。

「拍手も同じなんだよ」

「拍手?」

「拍手は、客席が舞台へ届けることができる“邪魔にならない力”なんだ」

なるほど。

なんとなく花子の中で点と点が線で繋がってきた。

拍手は礼儀であり、敬意であり、ありがとうの形だ。

近づかないまま、舞台上の推したちへありったけの”想い”を届ける手段。

「客席からの拍手は、出演者の背中を押してくれる。でもね、客席からの余計な“欲”は、背中に重たい荷物を乗せちゃうんだ」

「荷物?」

「勝手な期待、勝手な憶測、勝手な要求。目には見えないけど、とっても重い荷物」

花子はここへきて、ようやくこの契約の意味を掴んだ気がした。

見る側の”舞台”と演じる側の”現場”は、単に言葉が違うだけではない。

客席では”夢の舞台”と呼びそこに自由な夢を見る。

舞台の上の人々はそこを”仕事の現場”と呼び、努力を重ねながらそこで日々を過ごしている。

同じ場所でも、立場によって見える景色は大きく違う。

そのギャップを、花子は条件付きで覗くことになるわけだ。

もちろん、この契約書にサインをすれば、の話だが。

花子は迷っていた。

正直、舞台の裏側を見たい気持ちはある。

でも、とりあえず怖いという思いもあるし、なんだかとても奇妙な話だ。

だが、こういうとき、たいてい”好奇心”というヤツが勝ってしまう。

このまま何もなかったことにしてしまったら、花子は死ぬまで今日の奇妙なできごとに憑りつかれて生きていくことになるだろうし、多分、ヌマ友仲間の人格者、楓にだけこの話を打ち明けて「花子、それ疲れてるのよ、ゆっくり寝たほうがいいわよ」と言われて終わるのがオチだ。

花子は決めた。

「契約する」

シルビーが目を細める。

「そうこなくっちゃ!」

ちょっぴりニヒルな笑いを浮かべたシルビーは、署名欄を指さした。

「ここに指で触れるんだ」

花子は恐る恐る、シルビーが言う通りに空中の文字に指先を当てた。

一瞬だけ指先にヒンヤリとした冷たさを感じる。

だがほんのり温かい。

矛盾した感触が、妙にリアルに指先に残る。

矛盾した指先の感触さえも「劇団ってそういうところあるよね」と思ってしまうあたり、花子はもう沼から抜け出せないことを物語っている。

そのときだった。

花子の足元がすっと消えたかと思うと、悲鳴を上げる暇もなく、どこかへと落下していく。

ソファも、家賃も、豆腐も遠ざかる。

目の前が銀色に染まり、耳元でシルビーの声だけが聞こえた。

「じっとしててね」

「なに?」

「じっとしていれば大丈夫」

花子はどこかへ落ちていく恐怖を感じながら、それでも思わず真面目にキリリと返事をする。

「はい!」

銀色の世界から抜け出すと、暗がりの向こうに舞台らしき明かりが薄く漏れているのを感じた。

周囲を見渡すと、薄暗い中に黒い幕、黒い床、黒い箱のような機材が目に入る。

花子は静かに目を閉じ、呼吸を整えた。

ここは--舞台袖。


【宝沼歌劇団 第3話│舞台袖で見た“現場”には夢を作る魔法があった】の更新予定は1/28です。

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 宝塚歌劇団へ
ブログランキング・にほんブログ村へ
おすすめの記事